小山壯二の深掘! 「HDRについて考える 第3回 HDR制作のまとめ」

小山壯二の深掘! 「HDRについて考える 第3回 HDR制作のまとめ」

HDR用に撮影する事は、露出の違う画像を複数用意することですが、方法はいくつかあります。

1)1枚のRAWデータをつかってHDR画像を作る
RAW上にはあるが現像時のjpegで使われていないハイライトやシャドーを使うので、擬似的に複数露出の画像として生成されますが、効果は限定的です。反対に思えますが、ナチュラルな仕上がりより特殊効果狙いの場合に有効です。

2)複数のjpeg(RGBデータ)を使う
ブラケット撮影した複数枚の画像データを使う方法で、最も簡単にHDR画像を作れますが、現像時に行えるWB調整の自由度は低くなります。

3)複数のRAWデータを使う
最も効果的な方法です。Aurora HDRではRAWデータをダイレクトに処理できますが、カメラによってはカメラが生成した色味とはかけ離れる場合もあり、個人的には中間濃度の画像を基準に現像したあとAuroraHDRで処理する方をお薦めします。

フジフイルムのX-Tシリーズに備わる「ISOオート」という、1回のシャッターで段階露光したかのように3段階の画像を生成するブラケット撮影もありますが、基本的に1枚の画像をRAW現像時に明るさ補正をした画像と変わりなく、簡便ではありますが効果は1)と同様で限定的です。データ容量が増えるだけ無駄ともいえます。

注意したい方法

jpeg1枚からHDR生成が可能とアプリの宣伝では書かれていますが、極僅かな階調差を拡大するために不要な色かぶりやノイズが出てしまいます。

複数コマ撮影中の画角の変化はある程度はAurora HDRが補正できますが、ピントずれは補正できません。マニュアルブラケットする場合にはピント位置の変化に要注意です。

 

1枚のRAWデータから
Canon EOS R撮影のRAWデータを現像時に+1.5段と-1.5段の明るさで現像し元の露出のデータと併せて3枚で合成

撮影したままのjpeg(RAWとjpeg同時撮影)

Aurora HDRで合成した結果

船のシャドーが目につきますが、海面の表現が見事に浮き出ています

複数枚のjpegデータから(LUMIX S1Rで±1段の3枚の中間露出) お薦め方法

Aurora HDRで合成した結果

ごく自然にハイライト部の石目や草むらの表現が出来ています。RAWで撮影していてもWBを含む色合いを調整し複数枚のjpeg画像に現像した後でAurora HDRに渡す事が最も予測しやすく作業も軽快に進められます。

複数のRAWデータからHDR 

Canon EOS 5D Mark IV ±1段で3枚撮影したデータの中間露出

AuroraHDRで合成した結果

色合いのバランスが少し異なるので、ナチュラルな表現のためにはAuroraHDR上で色調整が不可欠となり、なかなか思ったような色にはなりません。解析のためか作業時間が大幅に長くなります。最終結果が予想と異なる場合が多くお薦めしない方法です。

必要な枚数と露出差は

あくまで経験則ですが、ナチュラルな仕上がりを求めるならば、±1.5段の計3枚程度が扱いやすいと思います。一般的にカメラの露出調整が1/3段刻みとすれば±1段1/3でも良いでしょう。露出の基準は最もアンダーな露出で再現したいハイライトが確実に白飛びしていないことです。シャドーは誤魔化しがききやすいのでハイライト重視です。ただし、いくらHDRでも太陽は白飛びします。

上下各5段とかとてつもなく露出を変えて撮影した場合は、肉眼が捉えた印象を大きく越えるため不自然さが強調されてしまいます。たとえば夜景で明かりの側の暗がりまで肉眼では捉えていません。白い雲のディテールは極僅か認知しているだけでしょう。自然な表現にはなりにくいのです。

特殊効果的なドラマチックな「もはや写真ではない」表現を求めるなら、いくら段数を加えても良いのですが±1段1/3づつで計5枚が実用的には限界ではないでしょうか。

HDRの効果まとめ
3回にわたってご紹介してきましたが、HDRは決して特殊効果のためだけの機能ではありません。現代のカメラに内包された機能の仕上がりを見てそのように誤解しやすいと思いますが、肉眼で感じた被写体の見た目を再現する要素がとても大きいのです。
またRAW1枚でも大きな効果が得られる点に驚かれた方もいらっしゃると思います。カメラのjpeg生成時のアルゴリズムでは、「自然さを損なう」とか「飛び際潰れ際の撮像素子の再現性に疑問がある」からと切り捨てている場合が多いのです。HDRのようにカメラが記録した情報の全てを違和感なく再現できる選択肢が加われば、写真機としてのデジカメが、撮影者としての表現が、一歩前進すると確信しています。

小山壯二
株式会社プロテック代表取締役
いち早くデジタルフォトに取り組み、画像処理前とアナログ時代に培った撮影テクニックで、
精⼀杯写真を撮影する。テスト記事を中⼼にカメラ雑誌への執筆も数多くこなしてきた。
最近はパノラマ撮影など、写真に関する好奇⼼はいまもって旺盛。