柴田誠・言葉は常に進化しているのだよ!

長く編集者をやってきた弊害からか、できたものに対する愛着心(執着心)はあまりない。出来上がった本は返品率とういう数字で評価され、誤字脱字を指摘され、内容を批判されるものだったからなのだと思う。とは言え、翻訳モノというのは、それまでとは少し趣きが異なる。

自分の書いた文章が他の言語に翻訳されると、がっかりすることが少なくない。吟味して選んだ単語や言い回しがあっさりと違うものになっていることがあるからだ。さらに英語の場合、ネイティブチェックという英語圏の人による言い回しがおかしくないかのチェックが加わることが多い。しかしそれによって、文章はますます単調に、味気ないものになってしまうことが多いのだ。

例えば青色一つにしても水色から藍染の濃紺まで、日本語には数多くの青色が存在するし、それに当てはまる漢字も違う。それを「ブルー」で片付けられてしまうのは、どうも納得がいかない。文章だってそうだ。倒置法や二重否定だって使いたいし、どうせ翻訳してくれるのなら韻を踏むくらいの配慮が欲しいと願ってしまうのだが、ネイティブチェックが入ると、さらになんだかなぁなモノになってしまうのである。

辞書にある表現や文章が正しいことは否定しないが、言葉は生き物。常に進化し変化している。日本語だけ見たって、数多くの新語が毎年生まれているから、世代や時代によって表現も変わってくる。制作に何年もかかる辞書が表現に追いついていないことだって多い。「Really?」は「本当に?」って訳すのは間違いじゃないけれど、今どきは「マジ?」か「ホント?」でしょ。もちろんそんなことは辞書には出ていない。
ネイティブチェックする人は、日本語も英語も理解できる優れた人には違いないし、TOECだって相当の高得点なのだろう。しかし、国語(母国語)に堪能かどうかは別問題。教科書的には間違いのない文章をチェックできても、文章表現上どうかというところまで配慮できているのだろうか、そんな疑問を感じる場面に出くわすことも正直多いのだ。

そして、写真を知らない人が写真の文章を訳すと、残念な結果になることも多々ある。よくあるのが「一瞬を切り取った」を「catch a moment」と訳されること。直訳するとそうかもしれないが、動画じゃないんだからcatchじゃぁないだろう。教科書的には「take a picture」だろうけど、それもなぁ。私の場合、「撮影する」はシャッターを押すという意味で「shoot」を使うことが多い。引き金を引くのと同じ言い回しで、ワンショットに込めた想いが伝わればなぁと思ってのことだ。教科書的にはそんな言い方はしないのかもしれないが、それでもshootがtakeやcatchに置き換えられてしまうのは、とっても残念なのである。
教科書的と言えば、ショップで飲み物をオーダーして「thank you」とお礼を言うと「You are welcome(どういたしまして)」と返すのだと学校で習った。しかし、日常会話で「You are welcome」と返されることはほとんどない。たいていは「Enjoy!」か「Have α niceday」だ。今どきの学校ではこんなやり取りをちゃんと教えているのかな、それとも相変わらず数十年前と変わらないのかな。言葉は常に進化しているのにねぇ。

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フォトジャーナリスト・柴田誠  Makoto Shibata

香港をベースに活動するフォトジャーナリスト。
日本のカメラ雑誌の編集者を経て独立し、現在はアジアを中心に、
カメラショーやアートフェアなどを取材しレポートする。
取材のかたわらアジア各地のストリートスナップを撮り歩く、
自称ストリートスナイパー&ナイトフォトグラファー。
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