小山壯二の気になるレンズ「SIGMA 20mm F2 DG DN | Contemporary」チャート&実写レポート

撮影者の技量が問われる画角

ミラーレス一眼が当たり前となった今日では、20mmというレンズは広角ズームの範囲に含まれて、同画角の単焦点レンズはフルサイズでもAPS-Cでも非常に少ないのが現実です。フルサイズの20mmはAPS-Cでは14mmが近く、対角線画角で94.5°なので驚くような超広角でもありませんが、肉眼の視野よりはすこし広いのです。この画角では、極端なデフォルメによる驚きや、方形の部屋で4面の壁が画角に入るような離れ業は無理です。反面超広角でありながら、ごく自然な絵柄に仕上げることも可能な不思議な性質を持っていると思っています。
著者自身も20mmの画角はズームに任せてきましたが、実際にこれ1本で撮影してみると別の理解が進みました。詳細は作例のページでお話しします。

案外少ない20mm単焦点

現在(2023年1月)でミラーレス一眼、フルサイズ、電子接点付きの20mmレンズは筆者が知る限り、以下の7本が存在するに過ぎません。(マニュアルフォーカス・電子接点なしのレンズは他にもあります)
SIGMA:20mm F2 DG DN | Contemporary
SIGMA:20mm F1.4 DG DN | Art
TAMRON:20mm F/2.8 Di III OSD M1:2 (Model F050)
TOKINA:FiRIN 20mm F2 FE AF
SONY:FE 20mm F1.8 G SEL20F18G
NIKON:NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
カールツアイス:Loxia 2.8/21
APS-Cでは富士フイルム XF14mmF2.8 Rただ1本だけのようです。

基本スペック

レンズ構成枚数
11群13枚(FLD1枚、SLD1枚、非球面レンズ3枚)
画角 94.5°
絞り羽根枚数 9枚 (円形絞り)
最小絞り F22
最短撮影距離 22cm
最大撮影倍率 1:6.7
フィルターサイズ φ62mm
最大径 × 長さ.
L マウント/ φ70mm × 72.4mm  ソニー E マウント/ φ70mm × 74.4mm
質量
L マウント /370g  ソニー E マウント/ 370g

370gと重量級ではありませんが、持った印象は小さいので心地よい重みを感じます。α7RⅡとのバランスはとっても好きです。
総金属削り出しという物の質感は、心地よいハードさがとっても男らしいと感じてしまいます。非球面レンズや特殊レンズを使った絞り9枚羽根のモダンな設計の超広角レンズは、一眼レフ時代とは全く異なる設計です。

まず大まかな性能から検証しましょう
-解像力-

チャート撮影では中央部は絞り開放から素晴らしい結果で、テスト機のα7RⅡの4240万画素の基準となる0.8を軽々とさらに0.7も全方向解像しています絞るごとに細部のコントラストが高くなり素晴らしい結果です。画面コーナーでは周辺減光の影響で不鮮明ですが、絞り開放でも0.8をなんとか解像しF4.0でほぼピークになります。開放から素晴らしい中央部と超広角である事を忘れさせるコーナーの解像は見事です。散見される色付きはカメラのローパスレス仕様に起因するのでレンズの性能ではありません。
このチャートで読み解ける歪曲収差は、カメラでの自動補正が良く効いて直線に曲がりは一切ありません。

色収差

画面周辺で見られる色輪郭(倍率色収差)はカメラでよく補正され皆無ですが、ハイコントラストな輪郭で合焦部の前後の現れる軸上色収差をチェックしました。一般的に合焦面より手前ではマゼンタ で後はグリーンの色被りとして現れます。

絞り開放ではかなりハッキリと前後の色付きが確認出来ますが、1段絞れば軽減され、F4.0では被写体によって目立つ場合は少ないはずです。F5.6では無視できるレベルとなります。軸上色収差が目立つようなタイプではないですが、絞り開放時には少し注意が必要です。心配な場合は1段絞って撮影しておけば安心です。

ぼけ

超広角レンズで大きなぼけを期待するケースは少ないでしょうが、20mm F2 DG DN | Contemporaryのぼけをチェックしました。被写体の後方(後ぼけ)はハッキリとした輪郭で線の細いタマネギぼけが確認出来ます。近接時には後方のぼけが少し硬質に感じる場合があるかもしれません。被写体の手前(前ぼけ)は輪郭が滑らかでぼけディスクの中はフラットです。非常に美しいぼけといえます。

周辺光量

レンズ収差補正の周辺光量補正をON(オート)とOFFの場合を比較してみました。ONの場合でもF2.0ではかなり目立つ周辺減光があります。F4.0であまり気にならなくなりますが、厳密な補正はRAWデータ撮影し現像時に微調整が必要でしょう。OFFの状態を見ると絞り開放では真っ黒になるくらい落ちていますので、高ISO感度で撮影時は補正後にコーナー部のノイズが増加する事は致し方ないでしょう。

作例

仕事ではズームで対応しているため、20mmという画角に馴染みがないのではありませんが、撮影していると最初は自分の視覚とマッチせず、思ったより入らなかったり不要な物のが写っていたりと、やや驚きながら興奮してきました。そして、使い方次第で大きな表現範囲があり、被写体との距離感は撮影者の心の距離感だという事を強く感じました。超広角だからデフォルメさせてやろうとか、超広角だからパンフォーカスで撮ろうとか、意識しているうちはレンズに振り回されているのですが、気負わずに一歩近づけばとてもしっくりマッチしてきました。
とても地味で馴染みが薄い画角のレンズですが、撮影者が試されるような焦点距離です。被写体に向き合う引き出しを増やすことのできる一本でした。

作例は全てSONY α7RⅡを使用しjpeg撮って出し画像です

超広角も使い方次第


WB:太陽光  絞り優先AE -0.7EV  クリエイティブスタイル:ビビッド
F2.0 1/200秒 ISO感度:200
正面から水平にカメラを構えて撮影すれば、24mmとの差を感じることはないでしょう。画面の端で極端な変形もありません


WB:太陽光  絞り優先AE -0.7EV  クリエイティブスタイル:ビビッド
F5.6 1/1000秒 ISO感度:100
手前から奥に広がる景色を、俯瞰ぎみに撮影すると明らかに24mm大きなデフォルメが確認出来る
フレーミング次第で性格が大きく変化する魅力的な焦点距離です

絞りと解像力

WB:太陽光  絞り優先AE +0.3EV  クリエイティブスタイル:ビビッド
F8.0 1/60秒 ISO感度:100
細部まで最高の解像力を試したくてF8.0で撮影してみると、画面細部まで4240万画素の能力を最大まで引き出しています

WB:太陽光  絞り優先AE -1.7EV  クリエイティブスタイル:ビビッド
F4.0 1/60秒 ISO感度:640
石の鳥居にピントを合わせていますが、前後の灯籠でピント差がハッキリと記録され、比較的遠景でも絞り開放ではピントの差による立体感描写ができます。緻密な描写が可能にした表現といえます。

前ぼけと後ぼけの比較

 画面全体

WB:太陽光  絞り優先AE   クリエイティブスタイル:ビビッド
F2.0 1/2500秒 ISO感度:100 


ぼけの質を比較してみました。前ぼけは滑らかでうるさい印象は全くありませんが、後ぼけは僅かに硬質な印象が否めません

歪曲収差のONとOFF


WB:太陽光  絞り優先AE  クリエイティブスタイル:ビビッド
F2.0 1/2500秒 ISO感度:100
歪曲収差補正がONまたはオートに設定していれば、全く意識する事はないのですが、素の性能としてはかなり歪んでいます。RAW撮影でAdobe CameraRAWを使って現像時補正をするよりも、カメラで補正されたjpegデータの方が完璧な補正がされている点を書き加えます。

周辺減光補正OFFで撮影

WB:太陽光  絞り優先AE -0.3EV  クリエイティブスタイル:ビビッド
F2.0 1/160秒 ISO感度:100
周辺光量補正をOFFにすると画面中央部を引き立てる効果があって、このような被写体では良い変化になります

作例のスペックを見て頂ければ判ると思いますが、その多くは絞り開放のF2.0で撮影しています。超広角でありながら奥行き感を表現するのに必要な、解像力とぼけ質を信頼出来るからなのです。

 


小山壯二
株式会社プロテック代表取締役
いち早くデジタルフォトに取り組み、画像処理前とアナログ時代に培った撮影テクニックで、
精⼀杯写真を撮影する広告カメラマン。テスト記事を中⼼にカメラ雑誌への執筆も数多くこなしてきた。
最近は語られなくなっているデジタルフォトの基礎など、深掘り小山壯二として使命を感じて活動。
写真に関する好奇⼼はいまもって旺盛。